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小西夏実・中居真紀二人展「へんてこてん」 感想レポート

 

小西夏実さんと中居真紀さんの二人展の感想を、会期が短いため大急ぎで報告します。
市民ギャラリー矢田の一部屋を使っての展示ですが、床に広がるインスタレーションが小西さん、壁のキャンバス作品が中居さんといった感じできれいに分かれており混乱することはありません。

小西夏実さんの展示は、入口にレターパック、奥のカーペット上には低いテーブルが二つ。
パソコンにはツイッターのDMのやり取りが映し出されています。
もう一つの机には展示の構想をメモしたノートが広げられており、その前にはカレンダーが置かれています。
特定の日付に予定が書きこまれています。
とはいえ子細に観てゆくと構想や予定がなかなか思い通りに進まなかったことも分かります。
むしろこれは「失敗」の記録とも言えるかもしれません。
床には布団をかぶってふて寝しているかのような様子も再現されています。
しかし展示自体に悲壮感は案外感じられません。
うまくいかないことを外側から冷静に眺めるような、あるいはそれをむしろ楽しむような印象さえ受けます。
もちろん当初は悔しい気持ちが強かったと思いますが、それを展示として曝け出すことで自分自身も受け入れられるようになったのではないかと推測します。
思い通りに行かないこと・ままならないことを、最初からすんなり受け入れられるわけではなく、それによる落胆も正直にまるごと提示されたことで、観る側の自分のうまくいかない事どもが思い出され共感してしまいました。

中居真紀さんの作品はすべてキャンバス作品で、クレヨンとアクリルや油絵具を組み合わせて重層的な画面を作り上げています。
以前に矢田で展示を行ったときのドローイングを発展させたような画面は、ウサギや魚などのモチーフが躍動します。
ただしモチーフが線画のときはいくつもの動物やモノの重なりが複雑に絡まり合いますが、独立したキャラクターのように色塗りされている場合は、色面を背景にして手前に存在感をもって登場しています。
中居さんの画面は記憶の重なりのようで、奥にいくほどぼんやりしています。
ものによっては昔の記憶でもはっきりしていて、それらは手前のウサギと同じくらい明確な形をとっています。
ある時の景色の光と影であったり、昔読んだ漫画だったりが実体験も虚構(漫画のストーリなど)も同じ「記憶」として堆積してゆきます。
現実も物語も妄想も、頭の中では等しく「記憶」になってゆくのも不思議といえば不思議です。
しかし絵画はそうした不思議を形にするのに向いているようにも思えます。
いや、これは画材や支持体と描画面の関係を試行し探求する中居さんの努力があったればこそかもしれません。

お二人は現在、名古屋造形大学 屋外ギャラリーで開かれている「空欄に名前を入れてください」展(15日まで)にも参加されています。
小西さんの大学での展示はこちらの展示と関係が深く、どちらか一つでも成り立つものではありますが、やはり両方観ていただくとより矢田の作品(特に布団)が沁みるものになるように思います。
中居さんの大学の作品は立体ですが、絵画に登場する光の記憶と深くかかわっているそうです。この辺りも大変興味深いのでやはりどちらも観ていただきたいところです。

さてこちらの展覧会のタイトルは「へんてこてん」となっていますが、へんてこなようで実に真っ当でもあります。
というか、人というへんてこな存在を真っすぐに見つめた様子がそれぞれの作品にあらわれているように感じられました。

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◎展示情報

【展覧会名】

小西夏実・中居真紀二人展 「へんてこてん」

【会場】
市民ギャラリー矢田 3F 展示室7

〒461-0047
愛知県名古屋市東区大幸一丁目1番10号カルポート東
【開催日時】

2022年11月8日(火) – 11月13日(日)

10:00-18:00(最終日は17:00まで)

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海牛目(かいぎゅうもく)  ただの美術愛好家  放し飼いと家畜の狭間にtwitterを回遊  展示周りも基本狭間のみ 作り手でもなくコレクターでもなく、自他ともに認める「観るだけの人」 体力の無さには自信あり
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