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建部弥希 全面絵画展 感想レポート

 

建部弥希さんの挑戦的な個展を観てきたので感想を報告します。

会場の外からも見えるウィンドウ内は四角い絵画が舞い上がっておりこれでまず驚かされますが、会場内も作品の森に圧倒されます。

感想は先にツイートしたものを再録して載せます。


 

今回の個展は「全面絵画」のみによる展示である。
作家は油彩、水彩、コラージュ、オブジェと多様な作品を制作しているが、今回は油彩(+水彩)のこれまで平面作品の手法に限定している。ただしこれまでと違うのは作品の形と様態である。
形はほぼ直方体で平面よりは立体に近い。しかしこれが形の違いに留まらないのは、六つの面すべてに油彩で描かれているという点である。「全面絵画」と呼ばれる所以でもある。これまでの平面作品でも側面は着彩されていたが、今展ではすべてに及んでいる。

この全面絵画を見せるにあたっては展示のほうもかなり工夫がされている。
大小直方体が壁一面に並ぶのだが、棚は透明素材になっており、接地している下側も覗くことができる。
さらに天井から作品が吊るされ、文字通り四方八方から観賞することができる。
今回はこの展示空間もかなりの見どころといえるだろう。
インスタレーションに近い空間が鑑賞者を取り囲むように広がる様は圧巻である。
建部作品は色の強さが一つの特徴だが、まるで色彩の森に迷い込んだような趣が感じられる。

しかし、全面絵画というのは実に悩ましい存在だ。
展示の工夫で下や裏を覗くことができたとしても、鑑賞者は常に一方向からしか眺めることができず、常に隠れた画面を夢想するしかないのである。なんとももどかしい気分になる。
このもどかしさはなにより「裏にも絵画が広がっている」という事実によって、より一層強く掻き立てられるように思われる。

立体である点は彫刻も同じだが、360度眺められる彫刻がしっかりすっくと立っているのに対し、この絵画は上下を感じさせない。四方八方に加え上下から観ても、どの面も等価な存在なのである。
こうなると彫刻とは真逆に重力の束縛から逃れ、自在な空間を現出させる。

「全面絵画」という形式の意義についてはこれでも語り尽くせていないのだが、それを成り立たせる絵自体も重要である
建部作品の平面作品は抽象絵画で、ほぼ色と形による構成である。
これまでは池や林を連想させる図像もあったが、光や時間といった形を持たないものが描かれていることが多かった。風景と結びつくものも根底では光や空気の表れだったかもしれない。
「全面絵画」という形式は実に建部絵画に合っていると思う。今回の展示でも過去の描き方の特徴をいくつも垣間見ることができるが、どれも無理なく展開している。コンセプトとして非常に興味深い試みだが、作家にとっては当たり前の展開だったのかもしれない

今展では特別に回転する展示台も用意されているが、その上の作品を観ていると面がつながって際限なく流れてゆく様子を楽しめる。手に取って眺めれば、六つの面がちゃんとつながって一つの「絵画」になっていることに改めて驚かされる。
「全面絵画」という形式の独自性とともに、それを成り立たせると同時にそれによって魅力を増した作家の絵画世界を堪能できる展覧会だった。


作品は全面に描かれた絵画なのですが、会場内ではあらゆる方向に作品が置かれ天井からも釣り下がっているので、今度はこちらが四方八方から取り囲まれているように感じてしまいました。

ほぼ全面に絵画が展示されるという、入れ子状の展示空間も是非堪能していただきたいです。

全面に描くという新しい形を見せながら、独自の空間に観るものを引き込むという「絵画」の王道を引き継ぐものでもあり、つくづく「絵画」というものの奥深さも思い知らされました。

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◎展示情報
【展覧会名】 「建部弥希 全面絵画展」

【会場】 スペースプリズム
【開催日時】 2023年6月29日(木)~7月9日(日) 12:00-19:00(最終日は17:00まで) 火曜休

 

 

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海牛目(かいぎゅうもく)  ただの美術愛好家  放し飼いと家畜の狭間にtwitterを回遊  展示周りも基本狭間のみ 作り手でもなくコレクターでもなく、自他ともに認める「観るだけの人」 体力の無さには自信あり
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