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山口渚個展「くらやみに溶けて」 感想レポート

 

山口渚さんの個展を観てきましたので、感想を書きたいと思います。

会場のギャラリ想さんは入口はやや細くて歩いていると見落としてしまいそうですが、奥に細長く白い壁は様々な作品に合いそうです。

さて、いつもの手ではありますがまずは先にTWした内容を転記します。

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会場には大小様々なサイズの作品が並ぶが、描かれているのは全て階段である。
さらに言えばいずれも暗闇に浮かび上がる図像となっている。

規則正しい白の矩形の一部が斜めに並んでいるから「階段」と思うだけで、階上も階下もなく全体像も掴めない。
階段も踏み面だけが白く、蹴上は背景と同じくらい濃い色であるため、殆どストライプなのだが、微妙な色の差は見て取れる。
時に蹴上として階段を表し、時に姿を消し白と黒の幾何学模様として現れる。
その揺れ動きはこちらの意識の移り変わり・行き来かもしれない。

子細に観てゆけば作品は幾つかの種類に分かれる。
「noise」と題された作品群は、階段の周りに白い矩形のストロークが飛び交う。
また階段の側面が白から濃紺に変化している作品も見られる。
これは踏み面が闇に飲まれており、階段は気配として存在している

一点のみ階段の踏み面が全体に灰色で塗られ、さらに手書きのような線で(他の作品はマスキングによるのか、スキっとした直線からなる)描かれた作品が異彩を放っていた。他の作品の階段は白の強さや直線の鋭さが、存在自体の強さにつながっているが、先の作品は様子が違う。

山口作品は闇の深さと光の強さが印象的で、それが階段を上にも下にも属さない、自立した存在として成り立たせているように思うが、あのおぼろげな階段は曖昧で消え入りそうな記憶の世界の住人に見える。
これがどのような展開をみせるのか気になるところである。

今回はキャンバスに油彩作品とパネルにアクリルの作品が展示されていた。
アクリル作品は細かいストロークの凹凸が強く、また背景もやや青よりに感じられた。
以前の展示では区別が付かなかったので、この辺りは意図的に描き方を変えているのかもしれない。個人的には油彩の色が好みだったが、その辺りはまさに個人の嗜好の問題だろう。

これまでもタイトルは見ていたはずだが、今回の展示では階段を人と結びつけるものが多かった気がする。
確かにその存在感の強さは、モノよりは「人」に近いようにも思える。
しかしそれは、「階段が人を示している」のではなく、私たちが人に感じるのと共通の「存在感」を階段が有しているためではないかと思える。
などと書いておきながら、ではその存在というのがどういうものかとなるとうまく言い表せないのが情けないところ。

かけがえのないものであり、世界に唯一のものであり…などとその断片を上げる事はできるのだが、それで十分な感じがしない。
答えが見つかるものかはわからないが、引っかかり続ける事柄だ。
そして山口作品はその気になるものを示し続けている。

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いまだに「存在」がなにかははっきりつかめないのですが、しばらくぼんやり考えているうちにまた別のことが気になってきました。

山口渚さんの絵画は闇に浮かび上がる階段が印象的なのですが、この階段が放つ光はどこから射しているのでしょうか?

おおよそは手前側が明るいのですが、踏面が白く輝いているのに対し蹴上は闇に近かったり、複数の階段で光っている向きがやや異なったりします。
作品によっては踏面が途中から暗くなっていたり、階段自体が闇に包まれてゆくようなものも見られ、どこから光が来ているのかわかりません。

自分にはこの光は画面の大半を占める「闇」によってもたらされているように思えます。階段の存在をこちらに示すために、闇が一時退いているではないか?
画面の闇は心細くもありますが、おそろしさよりは心の静かさを与えてくれているように感じられます。

ある作品では暗闇の中に、わずかに別の階段の輪郭がみえるものがありました。
闇は階段を包むのですが、その存在までも消してしまうものではなさそうです。

どうもわからないことが増える一方ですが、その分ますます作品に惹かれてゆくようです。

ただ現実世界では、階段はやっぱり駅のホームに駆け降りるだけの存在だったりするのですが…

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◎展示情報
【展覧会名」 山口渚個展「くらやみに溶けて」

【会場」 ギャラリ想

〒464-0851 名古屋市千種区今池南3-9

【開催日時】 2021年5月13日(木)~5月23日 12:00-18:00(最終日-17:00) 火・水休

 

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海牛目(かいぎゅうもく)  ただの美術愛好家  放し飼いと家畜の狭間にtwitterを回遊  展示周りも基本狭間のみ 作り手でもなくコレクターでもなく、自他ともに認める「観るだけの人」 体力の無さには自信あり
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